1. 福祉資本主義の三つの世界
以前に紹介した教養書、エスピン・アンデルセンの「福祉資本主義の三つの世界」ですが、読みながらぼんやりと思ったことを備忘のために記事にしておこと思います。
2. 雑感
・負け組レジーム
本書では自由主義、保守主義、社会民主主義の3つのレジームに先進国を区分している。しかし、自由主義と保守主義の悪いところ取りをしたイタリア・スペイン・ギリシャ・日本のような南欧・儒教アジアモデルだけは明確に負け組なのではないか。まともな本であるほどそれを声高に煽ったりはしないが、自由主義に属するアングロサクソン国家(アメリカ・オーストラリア・カナダなど)の経済パフォーマンスは注目に値するものであり、社会民主主義系の国(スウェーデン・フィンランド・ノルウェー・オランダなど)の持続可能性についての指標は圧巻である。負け組モデルには、経済成長の力強さとフォーマル・インフォーマルな社会的配分の両方が欠けている。
・何に「力を入れていない」のか
子供や老人のケア等を家庭に任せるのではなく政府が強く支援する形の国々が、逆にどのような分野で「お金をかけていないか」は結構知りたいところ。それでも日本よりGDP当たり債務が少なく、一人当たりGDPも大きかったりするのだからどうなっているのだろうと感じる。むしろケアから解放された人々がケアにあてていた時間と労力を仕事や自己教育に回すことが経済をけん引して税収を伸ばしているのかもしれない。そう考えると、やはりケアの負担は異様なほど大きいのか、はたまた、人間が発揮している能力のちょっとした差の積み重ねが和ではなくまさに積で発揮されるのか。
・日本は「企業福祉」の傘下に全員を突っこませたがるけど
日本の「求職活動を続けないと失業保険をもらえない」システムも特異なのかどうか気になるところ。労働・企業所属を通じた生活資金及び福祉の獲得を全員に強制させることで社会権を行きわたらせようとするこのシステムには、社会権へのアクセスの前提に自身の労働力の商品化があることは焦眉であろう。
・社会民主主義政党台頭の条件
「福祉資本主義の3つの世界」ではスウェーデンで社会民主主義政党が成功した理由として農民と労働者の「赤緑連合」の成立が強調されている。結局、農民を社会民主主義・労働者政党が取り込むか、保守政党が取り込むのかが分水嶺だったことは興味深い。日本の社会党はどこまでも「都市政党」だったし、しかも自民党が都市部のホワイトカラーにも接近して白緑連合の形成に成功した感がある。社会民主主義政党が議会で多数を握りに行く場合、本心で救いたいと思っている「中の下以下」の労働者階級だけでなく、それ以上の人々をも包摂する政策を掲げる必要がある。だからこそ社会民主主義レジームの国は普遍主義に収斂するし、普遍主義に収斂するから社会民主主義が他の思想を寄せ付けない。日本の中産階級は正規・非正規の分割や格差を縮める効果の薄い再配分政策によって明らかに特権を得ているが、そんな特権階級としての中産階級をも包摂しなければ左寄りの政党に勝ち目はない。
・マルクス主義の功績
「福祉資本主義の3つの世界」あたりの年代の本を読んでいると、いかにマルクス主義が資本主義を相対化し、議論や論考を豊かにしたかが分かる。著者は明らかに社会民主主義を支持しているが、自由主義・保守主義的・マルクス主義全てに対抗しようとするため極めて洗練された論理になっている。
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